君が手を繋いでくれたのは、

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君が手を繋いでくれたのは、

君はいわゆる文学青年なのかな。 部屋のクーラーが壊れたからって理由で図書館に来てるような私とは違うのかな。図書館は混んでいて個室席は空いてなくって君と私は真向かいの席にいる。 垂直に本へと落ちる睫毛は長くて黒くってばっさばさでそこに隠れてる瞳はどんな色をしてるんだろ。 君の脇には山と積まれた幾つかの本。 丁寧に大切に一枚ずつページを捲る君の指は 白くて細くって、まるで楽器を弾いているみたい 顔を上げないかな。 友達が来てしまう前に、君の顔が見てみたい。 なんて、じいっと見つめてたら、君が顔を上げた。 漆黒。なのにガラスの中に混じった透明度の高いような色。私の瞳の真ん中を一瞬だけ射貫いて下に向けられたそれは簡単にハートまで落ちて、抜けそうにない。 私は君をこんなにも意識してるけど、 君は思案の外。 頭の中はきっと今手元にある一冊の本。 どんな本なんだろう。 読書感想文にする本を写真集にしたわたしは 世界の絶景を眺めながら、ちらちらと君という絶景に見惚れてる。 ふいに君は立ち上がり、荷物だけを持って何処かへ行ってしまう。 悪いとは思うけれど、ほんのちょっとだけ。 身を起こして、彼が伏せた本の表紙を覗き込む。 逆さまのタイトルは・・・・ 「面白いタイトルだよね」 固まる呼吸、顔を上げたら君がいて。 「あ、えっと・・・」 「この本、読みたかった?」 「あ、えーっと、まあ」 彼はふっと目尻を緩めてくれた。 これが彼のほほえみって、王子様かな。 胸がドキドキする。 「五分シリーズ。今、はまってるんだ」 「五分・・・」 「五分で読める短いお話が詰まってるんだけど、どれも読み応えがあっていいんだよ。あと一話で読み終えるからそしたら佐伯さんに貸すね」 瞬きしずぎるんだけど、なんで私の名前を? 「あれ、違った?」 慌てて首を横に振る。 「偶然ってあるんだね」 「え?」 「今、飲み物買いに行くついでに、その写真集を探しに行ったんだ。そしたら、君が見つけててくれたからさ」 わたしは写真集を彼に差し出した。 「ど、どうぞ」 「でも、君読んでるんでしょ?」 「そっちが気になるから、待っててもいいですか?」 「同じ高校だし、タメだから敬語とかいいよ」 俺、C組の牧、よろしくね、と笑って彼は席に座った。 牧君、って、もしかして、あの牧君? いつも学年トップの成績で名高い牧君? 名前しか知らなかったけど、こんなにイケメンだったんだ。 「もしかして、課題で来たの?」 「うん」 「でも、それ、写真集」 「ははは・・・ダメかなぁ」 「どうだろうね。あ、良かったら、同じ本で書いてみない?」 「え?」 「短編なら読むのも飽きないし、それに、せっかくの偶然だから・・・活かしたい」 ぽつりと言った君の顔がちょっと紅く見えるのは 気のせいかな? そう呟いた彼が差し出した本の表紙には 「五分後に〇〇〇なラスト」 二人で同じ本を読むのって、ちょっとワクワクするけど、 友達や先生に怪しまれないかな? 「いや?」 「ううん、いいよ」 ・・・五分後 牧君はそれを読み終わって 私はそれを借りて代わりに牧君に写真集を渡した そういえば友達、遅いな。 そっとスマホを開いたら、急にお腹を下したらしく 行けないって文章が見えた 「誰か待ってるの?」 「友達を誘ってたんだけど、来れないって」 「そっか。じゃあ、あと少しで閉館だから、一緒に 帰らない?」 「う、うん」 私たちは図書館を後にした 外は昼間よりちょっとだけ涼しくてほっとする ヒグラシの声が奏でる穏やかな夏の夕。 牧君と並んで歩いてるなんて、まだ信じられない。 「牧君って、本好きなんだね」 「うん。本って、いろんなこと教えてくれるから気に入ってる。佐伯さんは、本好き?」 「あまり、読まないんだ。たまに雑誌読むくらいで。だから感想文、何を読めばいいかわからなくて、絶景眺めてた」 牧君は可笑しそうに笑う。 「佐伯さんって面白いよね」 「そ、そう?」 「いつも見てるだけで癒されてたけど、 話すと面白い」 え? 牧君を見たら、口に手を当てて目を見開いてる。 「・・・牧君?」 「ご、ごめん、今の聞かなかったことにして」 でも、いつも見てるって・・・ それって、つまり、いつも私のこと見てたってこと、だよね・・? 頬が急速に火照ってしまうのは、気のせいじゃない。 「あー、もう。やっぱり聞いて欲しい。佐伯さんっ」 牧君は立ち止まって私を見つめる。 「俺、佐伯さんのこと見かけてから、可愛いなってずっと気になってて、だから、今日、偶然、君が目の前に座ってくれた時、どきどきしてなかなか顔上げられなかったんだよ」 え。 「勇気出して、一回見たんだけど、やっぱりすごく可愛くて、なんとか話しかけなきゃって。だから・・・」 「あ、あの、ちょっと待って・・・」 「俺と付き合ってくれませんか?」 嬉しい。 あのまなざしは無感情だって思ってたけど違ったんだ。 ちゃんと私を見てくれてたんだ。 嬉しい。 心が跳ね上がって、仕方ない。 「はい」 君がぎこちなくだけれど ぎゅって手を繋いでくれたのは その五分後だったんだ。 ※五分シリーズを使用して編集部様、ごめんなさい。。。
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