第三章・砕けた祈り
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第三章・砕けた祈り

■■■■■■ 「ま、魔王様っ、お待ちください! いったい何があったのです! それにブレイラ様はっ」 「魔王様! 何をなさるつもりですか!」 「退け、邪魔をすることは許さん!」  ハウストは声を荒げると、ブレイラを横抱きにしたまま長い回廊を大股で歩く。  誰の制止も届かない。いや、今のハウストは最初から聞くつもりはなかった。  冥界から魔界へ転移魔法陣で移動したハウストは、仮死状態のブレイラを抱いて城の地下にある最深部の聖域に向かった。  多くの士官や側近がハウストを止めようとしたが叶わず、最深部へ続く階段を足早に降りていく。  そして厳かな古い石扉を開けると、そこは石と岩の石柱が建ち並ぶ神殿のような空間が広がっていた。  この最深部の空間こそ魔界の中心、核であり、魔王の絶対的な力を象徴する場所。この最深部は魔王の玉座の真下に位置していた。  空間の中心には石の祭壇がある。  ハウストはブレイラの体を祭壇へそっと横たわらせた。 「ブレイラ、待っていろ。お前を必ず取り戻す」  ハウストはブレイラを見つめ、冷たくなった唇を指でなぞる。  今のブレイラは唇の色を失い、その肌は温もりがない。閉じられた瞼は開かれることはなく、甘く輝く琥珀色の瞳が閉ざされている。  そう、ブレイラの魂が肉体から分離し、仮死状態に陥っていたのだ。  ハウストはブレイラの環の指輪が嵌められた左手を取ると、口付け、指を絡めて握り締めた。  そして全身全霊の力で魔力を高め、解き放とうとした時。 「お兄様、お待ちください!!」  メルディナが血相を変えて聖域に飛び込んできた。  フェリクトールも一緒である。彼にしては珍しく息を切らせていた。  しかしハウストはちらりと一瞥しただけで、また直ぐにブレイラに視線を戻す。  そんなハウストにフェリクトールが落ち着いた声で聞いた。 「魔王よ、冥界でいったい何があった。勇者と冥王の姿が見えないようだ。そして、王妃のその姿は」 「――――戴冠は失敗した」  遮るようにハウストが答えた。  その答えにフェリクトールとメルディナが息を飲む。  ハウストはブレイラの手を握り、見つめたまま淡々と冥界での出来事を語りだした。