第四章・奔放なる若き魔王の横顔
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第四章・奔放なる若き魔王の横顔

「あの男が死んだというのか? 俄かに信じ難いが……、確かに力を感じない。それは嘘ではないようだな」  驚きを隠せないながらもハウストが納得したように言いました。  あの男、それは先代魔王のことでした。  先代魔王の討伐はハウストの悲願。  それが叶っているというのに、彼の顔は険しいままで、目を据わらせる。 「フェリクトール、お前の言葉が真実なら、あの男は勇者が始末したということか」 「そういう事になる。あの時の勇者は一時的に神の力を得て、それを可能にした」 「そうか、勇者が……」  ハウストが黙り込む。  寝所に複雑な沈黙が落ちて、息が詰まりそうになる。  今、寝所にはハウストと私とフェリクトールの三人がいました。あまりの異常事態に謁見を制限しているのです。  そう、長い眠りから目覚めたハウストは以前のハウストではありませんでした。  フェリクトールが確認したところ、彼の記憶は私と出会う以前まで遡っている。  先代魔王の君臨する時代、それに叛逆した頃のハウストです。魔界を守る為に魔界各地に遠征を繰り返し、戦いに明け暮れていた。  戦いのなかで先代魔王の神になる野望を知ったハウストが、先代魔王から勇者の卵を奪い、人間界で私に渡しました。ハウストは先代魔王を城の地下にある聖域に封じることに成功し、その後、勇者が誕生して完全討伐に至ったのです。  しかし今、ハウストの記憶は先代魔王から勇者の卵を奪う前まで遡っている。それは今、彼の中に私がいないということ。私だけでなく、イスラやゼロスもいないということ。 「分かった、そこまではいいだろう。あの男が死んだことも、叛逆が成功して俺が戴冠したことも、今は精霊界と親交を結んだことも、受け入れよう。それが今の事実なら受け入れるしかない。だが」  ハウストはそこで言葉を切ると、訝しげに私を見る。そして。 「なぜ人間の男がここにいる。俺の妃だというが、男に世継ぎは生めないだろう」  心臓が握り潰された気がしました。  渇いていく唇を噛み締める。  しかしハウストは私を見たまま言葉を続けます。 「それとも北離宮に女を入れているのか? いや、いたとしても人間の男が王妃というのは解せん……」  ハウストは考え込む。  彼からは一切の悪気を感じない。魔界を統治する魔王としての純粋な疑問なのです。
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