ヒーロー

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私にお茶係を任せた類は、再びエコバッグから三段の重箱を取り出し、くっつけた机のうえに広げた。 「今日も美味そうだなー」 色とりどりの具が詰まった重箱を前に、雄大が目を輝かせて腹を鳴らす。 「はい、これお箸ね」 「さんきゅ」 「おー」 「ありがと」 唐揚げ、卵焼き、ほうれん草の胡麻和え、マカロニサラダ、アスパラベーコン巻き、肉団子。毎日類が作ってくれる弁当は、どのおかずも文句のつけ所がないくらい美味い。 「あっ、臣! てめえ、唐揚げ最後の一個食いやがったな!」 「へへーん! 早い者勝ちだよ、ノロマ!」 「くっそムカつくな! 表出ろ!」 雄大にガッと胸ぐらを掴まれて、立ち上がらせられる。「ああ、いいよ、その喧嘩買ってやる!」と、私よりも背の高い雄大の目を挑戦的に見上げながら拳を握って見せた。 「雄大、俺の唐揚げやるから」 「まじで!?」 類に宥められて、雄大は私の胸ぐらを離して元の椅子に座った。 「お前ら唐揚げで喧嘩してんじゃねえよ……」 琳が呆れたように溜息をつきながら、プチトマトのヘタを掴んで食べた。 途中で止められて不完全燃焼の私は、椅子に座り直しながらプチトマトに手を伸ばす。ヘタを掴んで、つるつるした赤い実を口に運びながら、ふと窓の外を見下ろした。 あ。 ぷちっと、ヘタから外れた実を反射的に噛む。
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