ヒーロー

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ぷちっと口の中で弾けて、甘酸っぱいゼリーと種が溢れ出す。瑞々しい果肉を噛み、窓の外を見つめながら、ごくんと飲み込んだ。 窓の外。校舎裏の、影になる所。そこに、半月前の入学式の日に見た天使がいた。 花壇の縁に座って胡座をかき、小さな顔がすっぽり入ってしまいそうな黒い弁当箱を抱えて、豪快に口の中に掻き込む。箸を止めて、弁当箱を顔から離し、頬をぱんぱんに膨らませて口をもぐもぐと動かす。 その姿が、どうにもリスによく似ていて、思わずふっ、と笑ってしまった。 「あ? 臣、何笑ってんだよ」 ずしっと、頭頂に誰かさんの顎が突き刺さって、体重が掛けられる。 「お、もいんだよ、やめろ雄大!」 ぐぐぐ、と頭で押し返していると、「あれ、沢(さわ)じゃん」と上から声が落ちてきて、ぴた、と押し返すのを止める。 「え、なに、知ってんの?」 「知ってるっつーか、同じクラス」 「んだよあいつ、あんな所でメシ食ってんのかよ、しかも一人で」と、私の頭に顎を載せたまま窓の外を見下ろして呟く。 誘ってやれば? と提案すれば、 「あー……」 なにやら歯切れの悪い返事が返ってきて、雄大は私から離れる。なんだ? と、椅子に座り直す雄大を振り返ると、雄大は私から視線を逸らしたまま言った。 「だめ。あいつ、超がつくほどの女嫌いだから」 ああ、なるほど。 「それは……しょーがねーな」
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