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その後、中学生、高校生になっても私は、まだ自分の肌が他人よりも特別な白さであることに、さほど気づいていなかった。 自分の肌だから、それが普通で当たり前のことだったし、そもそも客観的に自分の肌の色を考える機会なんてなかったものね。 ただ一度、大学生のときに、通勤ラッシュ時で、それはそれは物凄く混み合っていた赤羽駅のホームで、黄色い線の外側を仕方なく歩いていたときに、突然どこからか男性に「白っ!」と叫ばれたことがある。 もちろん、その対象が自分だったことを確かめたわけではないけれど、普段から「色白よね」と言われ続けた私にとって、それは、もう自分の名前を呼ばれたに等しかった。 それに、お世辞にも美人とはいえない私が、合コンやバイト先なんかで、意外にモテていたのは、色白だったからじゃないかって気がしているの。 でも、それは長男を産む前までの話。 長男を産んで間もなく、35歳を迎えた私に、まるで誕生日プレゼントのような素敵なタイミングで、そいつはやってきた。 はじめ、私はその存在を、できるだけ気にしないようにしていた。たとえば、毎朝、鏡の前で化粧をする時に。たとえば、2ヶ月に一度、美容院で自分の顔をまざまざと見つめざるを得ない時に。 でも、どんなに一生懸命に気にしないように自分で努力をしていても、その努力は第三者の手によって儚く無駄骨となったりもした。 たとえば、美容師がカラーリング剤を付着させたと勘違いをして、私の「それ」を何度も指でなぞったりした時なんかに。 そして、美容師が「ああ、これはカラーリング剤じゃなかったんだ」と気がついたとき、私の自身にかけた小さな洗脳は、ぐしゃりと踏み潰されてしまった。 そう、これは抗いようもなく「シミ」なの。目を閉じても、目をそむけても。 そもそも三十路を過ぎた辺りから、私の顔には、疑いようもなく目の脇に薄っすらとした大きなシミが浮かび上がってきていた。元々、目の周りに良く言えばアイシャドウのように生まれながらの色素沈着があったけれど、そんな絶望的なシミができるとは、誰も教えてくれなかった。
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