プロローグ

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 二人の男が窓から入る日の光のみの部屋で話していた。 「調査の結果、この会社には3000人ほどのリストラが必要な事が分かりました」 一人の男がバニラの香り芳しい煙草を吹かしながらその報告を聞いていた。 「派遣切りと契約社員雇い止めの割合はどれくらいかね? 経営コンサルタントの…… えーと」 「いえ、名前は呼ばなくて結構です。経営コンサルタントさんとでもお呼び下さい。派遣と契約は部署の閉鎖(クローズ)とでも言って退職金も無しでクビにしますよ。クビなら即職業安定所に行ってすぐに失業保険がもらえますから万々歳でしょう。こちらから自己都合退職と丸め込んで3ヶ月の空白(ブランク)があるというのも可哀想でしょう」 職業安定所と古い呼び方をする所、この経営コンサルタントも外見こそ若いが古い人間であった。 「これで、割合の方は」 「つい余計な話をしてしまいました。失敬失敬。2700人程です」 「2700人かぁ……」 男は神妙そうな顔をした。 「後残りの300人は正社員、そう簡単にはクビに出来ませんな」 「私もその300人を調査をしたのですが、あいつら会社に巣食うダニそのものですね」 「どのようなダニ具合なのでしょうか。私は中間管理職ながらに管理をしないもので」 経営コンサルタントはこの数ヶ月で調査したリストラ候補の300人の正社員の話を始めた。 朝から終了時間までずっとパソコン備え付けのトランプゲームに興じる者、携帯ゲーム機で「大人のビジネスマナー講座」と言うゲームをする者、スマートフォンでプリペイドカードを並べて課金ゲームに興じる者、部下の社員が考えたアイデアを自分のモノにする者、営業に行くと称してずっとインターネットカフェやゲームセンターに入り浸る者、トイレ休憩、喫煙室で一服のループを繰り返す者、真面目に仕事はしているのだが単に能力不足で成果を出せない者、様々なリストラされても仕方ないような社員達の事を数時間もかけて説明した。 「私も色んな会社は見てきましたが彼らにやる給料こそ金の無駄と言うものです」 「でも彼らはこんなに腐り切っていても正社員。そう簡単にリストラ出来ないんですよ。正直な事を言うと鐚一文の早期退職金すらやりたくないと思っています」 「でもこういう人を切らないと会社そのものが揺らぎますよ。勇気を持って肩を叩いたらどうですか」
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