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「ねえねえねえ。名前は? 名前はどうするの?」
沈んだ雰囲気を壊したのは、明るい白美の声だった。空気を読まない子なのか、それともわざと明るく言ったのか。先ほど会ったばかりのため、少年にはわからなかった。白美の言葉に、たしかに名前がないと今後何かがあった時など不便だと思った少年は、エリスを真っ直ぐ見つめた。自分で考えるよりも、こちらの世界に呼んだエリスに名前をつけてもらうのがいいと思ったからだ。自分で自分の名前を考えるのも、如何なものかと思ったというのもあるだろう。
「名前はあんた……エリスが決めてくれ」
「私が?」
「ああ。エリスが俺を呼んだんだ。名前は覚えていないから、なんでもいい。呼びやすい名前でも構わない。ポチとかタマでも文句は言わないぞ」
そう言うとエリスは少々考え込んだ。誰かの名前を決めるなんて、そうそうないことだろう。エリスは1分ほど考えてから彼の目を見た。どうやら、名前が思いついたようだ。しっかりと彼の目を見つめて言った。
「それなら――龍はどう? 嫌なら言ってくれて構わないわよ」
「『黒龍』だから龍か。かっこいいから、いいんじゃないか。わかりやすいし、気に入った」
「それは、よかった。よろしくね、龍」
安心したように微笑んだエリスに、少年――龍はなぜか照れ臭くなり顔をそむけた。もしもその名前が嫌だと言ったら、どんな名前をつけるつもりだったのだろうか。それはわからないが、『黒龍』という姿から龍という名前はわかりやすかった。それに、気に入ったというのも龍の本心だったのだ。
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