第三章 悠然な鳥

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「そろそろ、私は眠るとしよう。……そういえば、『白龍』はまだ転生をしていない。だが、あの子も寿命が近い。もし、あの子に会うことがあれば……転生をしたら、あの子のことを頼めるかい?」 「ああ、任せとけ」  その言葉を聞いて微笑むと、老人は完全に消えてしまった。周りを見渡してもどこにも姿はない。転生したのか、それとも違うのかは龍にはわからなかった。眠ると言っていたので、もしかするとまだどこかにいるのかもしれない。しかし龍は自分の中に前代である『黒龍』の老人がいたことすらわからなかったのだから、老人がどうしたのかはわかるはずもなかった。  龍は左手で髪をかきあげようとして、手を止める。視界に入ったのは、『マンティコア』につけられた中指と薬指の間から手首にかけて縦に伸びる傷跡だった。手の甲と手のひらに残った傷跡によく生きていたなと苦笑する。問題なく動き、触れても痛くないのは夢だからなのか。それとも、現実でも痛みが無く動くのだろうか。それは、起きてから確認しないとわからないことだ。  ――起きたら確認しないとな。  背中に受けた攻撃の跡もどうなったのかを確かめたかったが、それは起きて確認するのも難しいかもしれないと思ったようだ。背中なんか、自分で見ることは不可能に近いからだ。左手を強く握り目を閉じる。龍が意識を失ってからどのくらいの時間がたっているのかわからないため不安だったようだが、そろそろ目を覚ますことができると思った龍は体から力を抜いた。  ――あの老人に会ったからなのか、今なら目を覚ますことができるだろう。  そして、目を閉じた龍の視界が白い空間からゆっくりと黒くなっていった。誰かの龍に呼びかけるような声も聞こえることはなかった。
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