第二章 不吉

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 その時、スカジが浮かべていた笑みの意味を知る者も、見ていた者もいなかった。もしも見ていれば、何かが変わったのかと言われればそれはないだろう。何を思って笑みを浮かべたのかもわからないのだから。  白美が使い魔となり、ヴェルオウルに住むようになってからも不吉なことは起こらなかった。『黒龍』が現れた今回も何か不吉なことが起こらなければいいと思いながらも、国王は無理だろうと思っていた。隣国クロイズ王国との状況があまりよくないのだ。国王本人は仲良くしたいと思っているのだが、昔から仲が悪いため突然仲良くなることはできないのだろう。だが何かのきっかけがあれば、国王同士だけではなく国同士仲良くすることができるかもしれないと考えていた。  今のタイミングで戦争なんかが起これば、不吉な『黒龍』の所為となるだろう。それを思うと国王の口からは溜息しか出てこない。たとえそれが『黒龍』の所為でなくても、不吉なことが起これば誰もがそう決めつけるだろう。国王は何かを考えると玉座から立ち上がり、扉へと向かって行った。そして、静かに扉を開いた。
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