第三章 悠然な鳥

2/35
71人が本棚に入れています
本棚に追加
/318ページ
 言葉を聞いたエリスは小さく頷く。騒ぎが起こるかはわからないが、突然『黒龍』になれば騒ぎは起こる。だから、はじめから『黒龍』になっておくのだ。そうすれば、騒ぎが起こったとしても最小限ですむだろう。裏切り者とはいったい何に対してのことなのかを聞いても答えてくれないだろうことは龍にはわかっていたようで、聞こうとはしなかった。エリスがこの国にもしかすると裏切り者がいるかもしれないと思っているだけで、いない可能性もある。だから答えてはくれないのだ。  だが、裏切り者がいる可能性が高いから言ったのかもしれない。それに、戦力になる人間を召喚しようとした理由はそこにあるのかもしれない。裏切り者によって、戦力が必要となる時がくる。そう考えての召喚だったのかもしれない。  せっかく人型になったが、外に出たら『黒龍』の姿に戻らなければいけないと考えた龍は外を見た。天気は晴天。いつもより騒がしい街の音が聞こえてくる。どんなに騒がしくとも、坂の上に建っている図書館まで聞こえてきたことは一度もない。  騒がしい理由はヴェルリオ王国から集められた人達が来ているからなのか、それとも関係なく今日は活気がいいだけなのか。どちらかは龍にはわからないが、ユキが騒がしい音に耳を動かしている。 「じゃあ、行きましょう」  いつもと変わらない白いローブ姿。エリスのあとについて全員が図書館を出る。坂を下りながら『黒龍』になった龍の背中に、ユキと白美が乗る。1人と1匹が乗ってもまだ数人乗ることができる。しかし、今は乗ろうという考えはエリス達にはなかった。  多くの人が歩いている街の中へと入ると、人々は道を開ける。道を開けてもらわなければ、龍は進むことができないのだ。だが、全員龍が通るから避けるというわけではないのだ。不吉な存在である黒い魔物が通れば、関わりたくないのだ。だから、道をあけるのだ。龍が歩いても他の人が横を歩いて通ることができるほど道は広い。2匹の『ドラゴン』が横に並んでも歩けるだろうほど広い。メインの通りであり、馬車も通るからなのか、とても広い作りなのだ。  龍を見上げる者が多い中、黒麒を見ている者もいた。ヴェルリオ王国にはじめて来たのか、黒麒を見たことも話に聞いたこともない様子だった。それは会話からわかることだった。
/318ページ

最初のコメントを投稿しよう!