第三章 悠然な鳥

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「不吉が2匹もいるじゃないか」 「何を言っているの!? あのお方は神聖な『黒麒麟』よ。不吉なんかじゃないわ。不吉なのは『黒龍』とそれの背中に乗っている『九尾の狐』よ」  黒麒のことを知らない男性に、そばにいる女性が龍と白美を指差した。すると、他にも黒麒のことを知らない人がいたようで、男性と同じように指差された白美へと視線を向けた。龍は視線を向けずとも、大きいため視界に入るのだ。しかし、白美は龍の背中にいるため見えにくい。だから、あえて白美へ視線を向けるのだ。  見られていることに気がつき、白美は龍の背中で小さくなったが、龍は何も気にすることなく前を歩くエリスと黒麒について行く。前を歩く2人は気にしていない様子だが、いつものことで何を言っても無駄だと思い、あえて無視をしているのだろう。たしかに言われていることに対して文句を言っても意味が無いことはわかる。ここにいる者達だけでも人数が多いのだ。言ってもきりがないし、他の者達が何かを言ってくるだろうし、ここにいる者達も陰口は叩くだろう。だから、エリスも言うことを諦めているのだろう。  背中にいる白美は何も言わない。黙ったまま、なるべく見られないようにと伏せて姿を隠している。何も言わないのは、2人と考えは一緒だからなのだろう。けれど、できればその視線を向けてほしくはないようだった。  進むにつれて聞こえてくる言葉。龍と白美に対しての畏怖する言葉や、時々黒麒に対しての言葉も聞こえてくる。だが、黒麒を見て不吉だと言う人達には周りの人達が説明をしている。どうやら、黒麒が不吉だと言うことは許せないようだ。  気にしていないとはいえ心配なのか、エリスが何度か振り返り龍達の様子を窺う。その都度心配ないと言うように、龍は小さく頷いた。白美は姿が見えないため大丈夫なのかわからないが、諦めている部分もあるのだろう。大人しく、背中で小さくなっていることが龍には感じられた。  ヴェルリオ城に近づくにつれて、街に住んでいるであろう住民達の姿は疎らになってくる。代わりに召喚士や剣士などの姿が目立つようになってきた。それらは、今回任意の召集に応じた者達なのだろう。  城門の前で立ち止まると、エリスは門番にアレースに渡された手紙を見せた。門番はぐしゃぐしゃになった手紙を受け取り、一度龍を睨みつけるように見ると、無言で門の前から移動した。
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