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「はい。ですが、こちらのお言葉は国王様自らが書いたものです。私に読めとお渡しになったものです。それでも、私ではなく国王様に読んでいただきますか?」
「いいえ、貴方で構いません」
――国王は話せないのか? それとも、話せない理由でもあるのか?
国王のことを知らない龍にとっては、何故国王自らが話さないのか理解することはできなかった。しかし龍は、スカジが話す声を聞くたびに背中で震える白美には悪いが、本人が書いたものなら他の人が読んでも構わないと思っていた。それは、国王の言葉でもあるのだから。
「それでは、読ませていただきます」
持っていた紙を開くと、スカジの声で国王の言葉が読まれる。
『皆様、お集まりいただきありがとうございます。召集しました理由は隣国クロイズが国境付近にて、我が国に攻め込む準備をしているという情報を入手したからです。偵察を得意とする者も多く、皆様には是非偵察を願います。これは強制ではありません。中には剣士のような戦いを得意とする者もおりますが、もしものことがあった時のためにと声をおかけさせていただきました。もし、協力してくださる方がおりましたら、明日正午までに国境付近へお越しください。その際、クロイズ王国側には気づかれぬようお願いします』
読み終わったスカジは顔を上げ、国王を見た。何も言わない国王にスカジは頷くと、口を開いた。
「要件はこれだけとなります。皆様、今聞いたことは他言無用です。もし、話してしまいましたら命の保証はできません。それでは、明日現地でお会いできるのを楽しみにしています」
笑顔でそう言うと、国王は玉座から立ち上がりスカジと共に部屋から出て行ってしまった。その際、エリス達以外は跪いていた。結局、玉座の間に来てから国王は一度も口を開くことはなかった。
残された者達は明日、国境へ行くのかを周りにいる者達に聞いている。知り合いが行かなければ自分も行かないという者も多いのだろう。そういう考えでいいのかとも思わないでもない龍だったが、実際そのような考えで判断する者は多いのだ。
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