第三章 悠然な鳥

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「行くわよ」  それだけを言って、エリスは誰よりも早く部屋から出た。ざわつく部屋を出ると、何も言わずに出口へと向かって行った。擦れ違うのは城のメイドや執事だけで、他にはいない。メイドや執事の中には、龍を見て驚く者はいたが、軽く頭を下げる者が多くいた。誰に対しても頭を下げるのかはわからないが、立ち止まり頭を下げるのを見ているとそう教えられているのかもしれない。他の人達はまだ明日どうするかを話しているため、エリス達以外に部屋から出た城で働いてはいない者はいないのだ。ついてくる者もいない。  城内から出て門へと近づくと、腕を組んで背中を門に預けている1人の男がいた。龍はその男には見覚えがあった。何故ここにいるのかはわからない。しかし、彼は呼ばれていないため城内へ入ることはできなかったのだろう。だが、エリスがここにいると知っているのは門番にでも聞いたのか。そこにいたのはエリスの実兄、アレースだ。 「明日、行くのか?」 「どうかしらね」  それだけ言ってエリスは通り過ぎた。アレースは何も言わない。言わないが、龍を見て口を開いたが閉じてしまった。何かを言いたかったのだろうが、通り過ぎても言うことはなかった。いったい、何を言おうとしたのか。それをアレースに訪ねる勇気は、龍にはなかった。そして、アレースは何故明日のことを知っているのか。もしかすると、気がつかないような場所にいたのか。エリス達よりも早く部屋を出たのか。話を聞いている時に入室し、聞き終わってすぐに出たのであれば気がつかなかったかもしれない。  龍は門を通りすぎる時門番を見たが、門番は何も反応を返さなかった。また睨みつけてくるのではと思っていたが、見向きすらされなかったのだ。睨まれなかったのはいいのだが、何も反応しないというのは警戒していないということなのか。それとも、この場にいない存在としているのか。城を出て行くから気にしないのか。  他言無用。それを守るためだったのか、エリスは図書館につくまで何も話さなかった。機嫌が悪いというわけでもないので、何かを言っている者達のそばから早く離れて図書館に戻りたいと思ってのことかもしれない。  龍は人型になることもせずに図書館の裏へと回り鼻先で窓を押して開くと窓から頭を入れ、エリス達は図書館の中へと入っていった。部屋へと入り、イスに座るとエリスは小さく息を吐いて黒麒へと向かって口を開いた。
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