第三章 悠然な鳥

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「何か温かいものが飲みたいわ」 「では、今淹れてまいりますね」 「ありがとう」  部屋から出ていく黒麒の背中へ向けて言うと、もう一度小さく息を吐いてエリスは龍を見た。何も言わず、続いて白美とユキを見たが、やはり何も言わない。いったいなんだと言うのだろうか。  暫くして黒麒が戻ってきた。手には一つのコーヒーカップを持っている。エリスの前にカップを置いた。エリスは何かをしているわけではないのだが、テーブルに置く際にぶつけて溢さないであろう場所に黒麒はカップを置いたのだ。エリスはそれをすぐに手に取ると、湯気が立つそれを飲み干した。そして、静かにカップを置くと黒麒を見た。  黒麒はエリスの言いたいことがわかったのか、目を合わせたまま頷いた。それに対してエリスも頷き返すと龍を見て口を開いた。 「龍はどうしたい?」 「どうって?」 「明日、行きたいか、行きたくないか」  正直に言ってしまうと龍は行きたくなかった。明日行って、何が起こるかわからないからだ。もしかすると、突然戦闘がはじまらないとも限らない。だが、これは1人で考えて決めることではないと思い黒麒を見た。 「私は主に従うだけです」  何を聞かれるのかわかっていた黒麒は、そう答えて微笑んだ。他にもユキと白美に聞こうとしたが、先に答えが返ってきてしまう。 「私は戦いには関わることがないから答えないわ」 「あたしに聞いたら、行きたくないとしか言わないよ」  黒麒の言葉に続いて、ユキと白美も答えた。ただのユキヒョウであるユキは戦いには出ない。たとえ、戦うことが目的ではないとしても、戦う可能性がある場所にはつれてはいけない。魔法などが使えないだけではなく、ユキは普通の動物なので、危険な場所につれて行こうという考えは元からない。それに、エリスがつれて行こうとは考えないだろう。  戦うことが嫌いな白美は、できれば戦うようなところには行きたがらない。もし戦うことになれば、嫌でも参加しなければいけないからだ。戦えないわけではない。必要であれば戦う。ただ、戦いが嫌いなだけだ。だから、行きたくないのだ。戦うことが嫌いであっても、戦い方を教えるのは好きだ。それは、生き残るための力を身につけさせることができるからだ。  聞く前に答えはわかっていたようなものだ。たとえエリスに聞いても、龍に尋ねているので答えてはくれない。答えてくれたとしても、面倒だから行かないという回答が返ってきそうだ。
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