第二章 不吉

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第二章 不吉

 異世界で目を覚ました日から、龍は毎日人型になる訓練を黒麒から受けていた。しかし、長い時間人型でいることはできないでいた。少しの時間は人型になれるようにはなったのだが、それを保つことができないのだ。  初日のように人型を保っていられない。部屋を移動し、着替えるだけの時間人型を保てたというのに、初日以外は人型を保ていられないのだ。いったい、何が違うのか。まるで、初日は着替えるために人型となったようだ。もしも知らない人が来ている時に人型になったら、服を着ていないというのも大変なことになる。そんなことが起こらないようにと、人型を保つことができて着替えられたのかもしれないと龍は思っていた。  魔物用の服は人型の時であれば着替えることも可能で、たとえ獣型になったとしても破けることはない。人型専用のため、獣型となった時に消えるのだという。だから何度人型になっても、魔物用の服を着た状態の姿となるのだ。  そして訓練の休憩の時に龍は聞いたのだが、この部屋の扉は魔物にとっては重く感じられるが、人間には軽いものだという。昔起こった事件の影響で、対策として魔物には扉を重く感じられるようにしたというのだ。だから、人間であるスカジは簡単に扉を開いていたのだ。龍が人型を保つことができるようになり、扉を開こうとしても重く感じられるだろう。龍は人間ではないのだから。  龍は人型になる訓練をして、たとえ人型になれたとしても力を抜けば獣型に戻ってしまう。それの繰り返し。だから、休憩を何度もして気になることがあればその時に尋ねていたのだ。あれから部屋の外へも出ていない。人型を保つことができないのだから仕方がない。外の世界も気にはなっていたようだが、外よりも近くの疑問から解消したかったようだ。それに、日に増して長い間人型でいることは可能になっている。だが、長時間人型を保つことができない。何故長時間保つことができないのかも疑問の一つではあるのだが、これに関しては誰に聞いても訓練が必要としか返ってこないだろうことはわかっていたようだ。だから、これに関しては一度も尋ねていない。でも、一度でもいいから外に出たいとは思っていたのだ。そんな時、エリスが龍に向かって口を開いた。 「そろそろ買い物に行きたいのだけど……少しの間だけでも人型になれないかしら?」 「……少しの間だけでいいのか?」 「窓から外に出られればいいだけだから」
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