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「…僕の家、母子家庭なんだよ。父さんの顔は知らない。僕が物心付く前に逮捕されたらしい」
「逮捕?」
「うん。初めのうちはある殺人事件の被害者の同僚って事で暫くは任意同行で事情聴取されてただけだったんだけど、何故か父さんへの容疑は深まっていくばかりで……僕たちに迷惑を掛けないためなのか、離婚届を置いて出ていったんだって。母さんも自分はいいけど、僕たちに危害が及ばないようにって離婚したんだって」
「……それで?」
「そのあとすぐに父さんは逮捕された。父さんは法廷で無実を訴え続けたらしいんだけど、結果は敗訴。それでも無実を訴え続けたものだから、反省の色なしとされて終身刑を言い渡された……」
「……」
「その五年後、父さんは独房内で突然心臓発作を起こしてこの世を去った。もう一度陽の光を浴びることなく、独りでその人生を終わらせた」
僕は今にも泣き出しそうな慎の顔を見ていられなくて、空を見上げた。
「そのわずか半年後だった。その殺人事件の真犯人が捕まったのは。犯人は父さんの親友だった。そいつは父さんが捕まったのに自分は素知らぬ顔でのうのうと生きてたんだよ。許せると思う?」
「……許せねぇな」
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