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そんな慎は今では僕が気を使わずに一緒にいられる数少ない人の内の一人だ。
「よし、今日も講義頑張ろうぜ!」
そう言ってにかっと笑う慎に僕も自然な笑みで笑い返した。
***
午前の講義が終わり、僕は食堂へと向かっていた。
慎は教授に呼び出しを食らっていない。
僕は食堂に着くと適当な席に座り、姉さんに渡された弁当箱を広げた。
ハートだらけな弁当を見るのはもう慣れた。
一人でご飯を黙々と食べていると、女子学生軍団が近付いてきて
「あの…一緒にいいですか?」と聞いてきた。
──……いつもは話しかけられないのに。
そう思ったところで、原因がわかった。
今日はまるでボディーガードのようにいつも僕の側にいる慎がいないからだろう。
あいつが意外にもいい役割を果たしてくれているのだということを痛感しながら、断ることが出来ない僕は「いいですよ」と笑って答えた。
それに喜びの声が上がる。
こうして姉さんや慎以外の誰かと食事をするのは、彼女がいたとき以来だった。
僕は出来るだけ綺麗な食べ方を意識して食べた。
先輩なのか後輩なのか同級生なのかも分からないこの子達の夢のようなものを壊すのは気が引けたから。
女の子たちの話に笑って答える。でも、内容は一切入ってきていない。自分が何と答えてるのかもわかっていない。でも慣れているから変な返答はしていないはずだ。きっと、彼女達の求める返答をしている。
それが、本心じゃなかったとしても。
「おーい、和也ぁぁ~。って、おい!ハーレム状態かよ!?羨ましいやっちゃな!」
その声に、パッと顔をあげると、教授に解放された慎が駆け寄ってくるところだった。
──救世主!!
僕は思わず「ケンシ○ウ!」と叫びたくなった。……叫ばないけど。
近づいてくる熱血でむさ苦しい男・草木慎を見るなり、みんな「あ、天使様ありがとうございました」と言ってそそくさとその場を去っていった。
慎のパワーは偉大だ。
「ありがとう、慎」
「?何の事だか分からねぇが、まぁいいってことよ!」
自分が来たから女の子たちが去っていったという事実に気付かない可哀想な慎の肩をポンポンと叩いた。
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