榊和也のとある1日

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 そのまま慎と昼食を摂り、その後全ての講義をこなした。 「和也は今日はバイトか?」  そう訊ねて来る慎に「うん」と答えると慎は 「じゃあ、今日も送ってくぜ」と言ってくれた。  慎は余程の用事がない限り、僕をバイト先であるコンビニまで送ってくれる。  理由は簡単だ。  今から約1年前、バイトを始めた頃に1人で出勤しようとして、女の子に囲まれてバイトに遅刻したことがあるからだ。  それ以来、慎は用心棒のように付いてきてくれる。言葉には出さないけどありがたい。  僕たちはいつものように他愛もない話をしながら僕のバイト先であるコンビニ「ACマート」まで歩く。  ACマートに着くと、慎は「じゃあな」と言った。今日は買い物はしないようだ。  手を大きく手を振りながら去っていく慎に小さく手を上げて見せてから僕は店内へと足を踏み入れる。 「おはようございます」  昼勤務のパートさんたちに挨拶をしながら事務所に入ると、そこには椅子に凭れながらタバコを吸いながら真剣にスマホを見つめる店長の姿があった。 「おはようございます」と挨拶をすると店長は一瞬こちらを見て「おぅ」とだけ言うと、またスマホに視線を戻した。  どうやら動画を観ているようだ。  ──店長、あまり動画観ないって言ってたのに、珍しいな。 なんて思っていると。 『17年前、天木和成(あまきかずなり)さんが冤罪で逮捕された事件に関わった警察署署員全員の処分が決定されー…』  店長のスマホから、そんな声が聞こえてきた。  ──これは…。  僕は店長に気付かれないように店長の後ろに回り、店長のスマホを覗き見た。 『天木和成さんは17年前、女子高生をストーカーし、殺害したとして起訴され、終身刑を言い渡されていましたが、刑務所内で死亡。しかしその後、真犯人が逮捕され──…』  僕は店長のスマホを覗き見ているということも忘れ、ニュースに見入った。  このニュースの「天木和成」は何を隠そう、僕の実父だったからだ。 『悲劇の冤罪事件から17年経った今日、警察関係の処分が下されたということで──…』  ──そうか。あれから、もう17年経つのか。  僕がそう思ったのと同時に 「そうか。もうあれから17年経つのか……」 と店長が言った。 「……店長、この事件のこと知ってるんですか?」  はっきり言って、知っていてもおかしくない話ではあった。  こうして年たった今でもニュースで流れていることからも分かるように、17年前にもこのニュースは結構大きく取り上げられていたそうだ。  だから店長が知っていても何らおかしくない。  しかし、今の口振りからすると、それだけではなさそうだ。  店長は僕の質問に、少し迷うような素振りをしてから答えた。
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