榊和也のとある1日

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 そんな高校2年の時、昼休みに屋上で姉さん特製弁当を食べていると突然、慎に 「和也は何かなりたいものとかあんのか?」 と聞かれた。 「僕は弁護士になりたいな」  そう答えると、慎は驚いた顔をした。 「べっ、弁護士!?」 「うん。昔からの夢なんだ。っていうか、どうしたの、急に?」 「いや、さっき女子達が榊くんモデルスカウトされたけど断ったんだってとか言って騒いでたからさ」 「…バレてたんだ」 「何か夢でもあんのかなって思ってよ。そうか、弁護士か…俺も目指そうかな」 「何で慎まで?」 「そしたら和也と一緒に頑張れんじゃん?俺は別になりたいもんとかないしさー」 「夢、ないの?」 「昔はあったけど、今はねぇな。親に現実見ろって言われてるし、弁護士なら一生食ってけるだろ?」  そう言った慎は、少しだけ、悲しそうだった。 「……ねぇ、昔の夢は何だったのか聞いていい?」 「宇宙飛行士。でっけぇ宇宙の果てを見てみたかったんだよな。でも、親に現実味がねぇ、ちゃんと一生食ってけるような仕事に就けって散々言われちまって、諦めるしか無かった」 「……そっか」 「ま、俺の頭じゃ弁護士も夢のまた夢だろうけどな。今の俺の夢は和也の夢が叶うことだな」  いつも明るくて快活で真っ直ぐで、自分に正直な慎がそんなことを抱えているなんて知らなかった。  慎の寂しそうな笑顔に引っ張られて、僕の口は勝手に言葉を紡ぎだした。 「……僕も現実なんて見てないよ。ただ過去に縛られてるだけ」 「そうなのか?」 「そうだよ。一生食べれるからとか、そんな将来のことは一切考えてない。ただ僕は…」  僕はなぜ、こんなことを慎に言っているんだろう?と思った。  こんなこと、誰にも話したことなんてなかったのに……何故か慎には話したいと思った。  慎はなにも聞こうとはしなかったけれど、僕は勝手に続けた。
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