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菜々子の飛翔
僕は高三の秋だというのに、なんとなく『焦り』というものがなくて、まわりのやつらは推薦とか、早期受験とか、とっくに動き始めていたけけど、僕はそういう具体的な行動を見せつけられると、かえって地味に泉鏡花とか読みたくなってしまうのだった。
文芸部員らしさ、と言えば、まあそうだけど、別に部活と関係なくても、僕はなんとなく『焦る』というのは、違うかな、って思って。
人生の本質は、そういうことではない、とでも言うか。
僕には一年下の菜々子というガールフレンドがいる。菜々子は演劇部で、先の文化祭では濃い化粧に黄色いひらひらのワンピースを着て、どことなく前衛的な舞台の主役を演じ、その華やかな存在感には、スチール椅子の客席で見ていた僕も本気で圧倒された。
もともと彼女は容姿端麗というわけではない。どちらかというと、細くちっちゃな目やぷっくらした頬は地味な印象だし、身長もやや小柄な方なのを、舞台では高いヒールをはいて大人らしさを追加したりしていた。
本当は、菜々子はバレリーナになることを夢見て研鑽を積んでいた女子だった。しかし身長が伸びず、中学のうちに専門の道に進むことを断念しており、今は、いわばその代わりとして、演技で舞台に立っていた。
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