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そう言うと、拓哉は美恵子に五百円玉を一枚渡した。
「お前昨日、急いで俺んちに来たから、財布自分ちに忘れて来たって言ってただろ。
バイトの給料日前だから、こんだけしか出せないけど、ランチ定食なら食べれんだろ。」
そう言うと拓哉は背を向けて去っていった。
あまりの突然の出来事に、美恵子は礼も言えず、ただ黙って見送ることしか出来なかった。
「あれ、今の拓哉くんだよね?
一緒に食べなくてもよかったの?」
紀香の質問に、「う、うん。」とだけ答えた美恵子の胸は、何故だか少し胸がざわついていた。
そして、拓哉が見えなくなった今でも、その手に持った五百円玉の微かなぬくもりが、彼を近くに感じさせた。
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