1人が本棚に入れています
本棚に追加
そんなに急かさなくても、私ももうすぐお父さんの側へ行きますから。
待っててくださいな。」
美恵子は優しく微笑みながら、そう本に向かって語りかけた。
それから三十分ほどたって、美恵子は椅子から立つとそこに本を、置き着替えはじめた。
もちろん、あのうすピンクのワンピースではなく、着なれたパジャマから着替えるのは、ベージュや茶色の地味な色ばかりの服である。
ただ、別にその地味さが嫌ではなかった。
歳と共にその人に合った服がある。
いつまでも若々しく、服も華やかな人もいれば、年齢と見た目に合わせて、落ち着いた色や形の物を着る人もいる。
美恵子は、もともとの性格が大人しい方であり、若い頃からもあまりハデなものは着なかった。
でも、それが自分らしくいられる格好であり、今の地味な色や形も、自分らしくむしろ好きだった。
しかし、あの夢で着たワンピースを思い出すと、何だか違う人生を歩むのも楽しかったのかもしれないとも思えた。
服を着替えると、台所に行き少しの白米と、昨日娘が作って残しておいてくれた噌汁を少し、あとはちょっとの漬け物で、朝ご飯を食べた。
食べ終わると今一度自室に戻り青色の本をカバンに入れ、家を出た。
最初のコメントを投稿しよう!