食堂からの目覚め

4/9
前へ
/44ページ
次へ
そんなに急かさなくても、私ももうすぐお父さんの側へ行きますから。 待っててくださいな。」 美恵子は優しく微笑みながら、そう本に向かって語りかけた。 それから三十分ほどたって、美恵子は椅子から立つとそこに本を、置き着替えはじめた。 もちろん、あのうすピンクのワンピースではなく、着なれたパジャマから着替えるのは、ベージュや茶色の地味な色ばかりの服である。 ただ、別にその地味さが嫌ではなかった。 歳と共にその人に合った服がある。 いつまでも若々しく、服も華やかな人もいれば、年齢と見た目に合わせて、落ち着いた色や形の物を着る人もいる。 美恵子は、もともとの性格が大人しい方であり、若い頃からもあまりハデなものは着なかった。 でも、それが自分らしくいられる格好であり、今の地味な色や形も、自分らしくむしろ好きだった。 しかし、あの夢で着たワンピースを思い出すと、何だか違う人生を歩むのも楽しかったのかもしれないとも思えた。 服を着替えると、台所に行き少しの白米と、昨日娘が作って残しておいてくれた噌汁を少し、あとはちょっとの漬け物で、朝ご飯を食べた。 食べ終わると今一度自室に戻り青色の本をカバンに入れ、家を出た。     
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加