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「変わった本だけど、それでもいいならどうぞ。」
美恵子は、白紙のページしかない本を人は奇妙だと思うだろうと、一言添えて渡した。
青年は本を手に取ると、表紙をじっくりと見た後に、本を開いた。
美恵子は青年がどんな表情を見せるのか顔を覗いていると、青年は白紙のページを一枚一枚丁寧にめくり、急に一筋の涙を流した。
その表情に美恵子は驚き、声をかける。
「どうしたの?」
青年は涙を手で拭き取ると、「すみません。」と言って本を閉じ、美恵子に返した。
「いえ、誰かは分かりませんが、この本から優しさを感じまして。
ついつい、その優しさに心打たれました。
急に泣くなんて気持ち悪いですよね。」
青年が言うように、他の人が見れば白紙のページを見て泣くなど、情緒不安定としか思えないだろう。
しかし、美恵子には青年の気持ちがよく分かった。
「そんなことないわよ。
私もこの本を見ると、あなたみたいに泣くことがあるの。」
美恵子のその言葉に青年は、「そうですか。」とニコリと笑った。
「ちなみに、どなたが書かれた本なんですか?
作者の名前さへ書かれていませんが。」
青年の質問に、美恵子は少し間を置き答えた。
「書いたというか、作ったのは私の主人。
でも、その主人は十年前亡くなったの。」
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