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青年はその言葉に表情を曇らせた。
「そうでしたか。
それは申し訳ないことを聞きました。」
その言葉と共に青年はベンチから立ち上がり、美恵子に向けて深く頭を下げた。
「いいのよ。
確かに主人が亡くなって寂しいけれど、それでも私は残された時間を主人の分まで生きようと思ってるわ。
これでも、人生謳歌してるのよ。」
美恵子はそう言うと、青年に頭を上げるよう促した。
青年は頭を上げると、美恵子の手をいきなり掴んできた。
「あの、もしよければ、これからも話し相手になって頂けませんか。
実は僕、最近ここらに引っ越してきたばかりなんですが、誰も話す人がいなくて。
昨日、今日と出会ったのも何かの縁だと思って、お願いします。」
青年の突然の願いに驚きつつも、青年が握る手の温もりは考えるよりも先に「はい。」と答えさせた。
「よかった。
断られたらどうしようかと思いました。」
青年はまたニコリと笑顔を美恵子に向け、握る手を離した。
「それじゃー今日はここで失礼します。
僕は毎日この時間にこの散歩道を歩いているので、気が向いたらまたここへ来てください。
また会えるのを楽しみにしています。」
美恵子はまだ心が落ち着かない中、また「はい。」とだけ答えた。
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