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二人の拓哉
美恵子は同姓同名、更には見た目までそっくりな拓哉という人物に、まさか現実で出会うとは思わず、驚きを隠せないでいた。
あまりの出来事に、もしかして今もまだ夢の中なのではとも考えた。
しかし、これが夢であろうとも、現実であろうとも、心のどこかで拓哉に会えたことを素直に嬉しく思う自分がいることに、美恵子は気づいた。
そんな思いを胸に家に戻った恵美子は、その後何をするでもなく、ただ自室の椅子に座り、時間が流れるのを感じていた。
時に青色の本を手に持ち、表紙を撫でる。
そのうちに、夕方になり、夜になった。
いつもと同じ時間にベットに入ろうとするが、その前に亡くなった主人の仏壇前に座る美恵子。
手を合わせ、目をつぶると、心の中でつぶやいた。
"お父さん、昨日の夢に続いて、まさか今日の散歩道の出会いもプレゼントですか?
それともそれは私がそうやって都合良く考えているだけなんでしょうか。
でもね、そうとしか思えないんです。
あなたは、あなた自身が亡くなる少し前に、私にあの青色の本をくれましたよね。
その時、あなたは、
「お前には散々今まで苦労をかけた。
金使いは荒いわ、女遊びはするわ、借金をするわ、何一つお前にしてやれなかった。
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