二人の拓哉

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だからせめて、最後に一つだけ、この本をプレゼントをさせてくれ。 表紙の絵は俺が描いた。 お前が唯一俺のことを褒めてくれた絵を、精一杯気持ちを込めて描いた。 中身は白紙だが、それでいいんだ。 中身を埋めてくれるのはきっとこの本自身であり、お前を一時でも幸せにしてくれるはずだ。 俺がしてやれなかった分まで、楽しんでくれや。」 そう言ってましたよね。 あの時は何をいっているか分かりませんでしたが、今やっとその意味が分かりかけてきましたよ。 本のおかけで、最後の人生少しは楽しめてますよ。 ありがとね、お父さん。" 主人が言っていたように、散々迷惑をかけられ、沢山泣かせれたが、美恵子はそれでも満足していた。 だから、主人が残した言葉で、何にもしてやれなかったと言われたとき、実はしっくりこなかった。 けれど、主人にはそのことを言えずにいた。 「十分満足してますよ。ありがとう。」 と言ってしまうと、本当にお別れしてしまいそうだったからだ。 結局、突然亡くなった主人に、その想いを言葉として送ることが出来なかった。 そのことが心残りであった美恵子にとって、主人を差し置いて、拓哉に惹かれつつある自分をどうすればいいのか悩んでいた。     
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