押し入れの本

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迎えてくれたのは、どうやら老婆の娘らしい。 「もう、どこに出掛けてたの? 今日は雪が降るかもしれないって、天気予報で言ってたでしょ。」 娘は台所で何か料理を作っていた。 「外はすごく寒いし、買い物も大変かなと思って。 夕飯の買い出しして来てみたら、いないんだもの。」 夕飯の一つは味噌汁らしく、暖かくおいしそうな匂いが漂う。 「とにかく、お風呂も沸かしてあるから、早く入って体暖めてきて。」 娘はまた料理を作り始めた。 老婆は家の壁をゆっくりと伝いながら、浴室に向かう。 着ていた服もゆっくりと脱ぎ、湯船にもゆっくりとつかる。 隅々まで冷えきっていた体が、暖まるのを感じる。 風呂から出ると、リビングの机には夕飯が出来上がっていた。 「今日はもう遅いから、私ここに泊まっていくわ。」 娘の言葉に老婆がコクりと頷く。 その後、夕飯を食べる音が部屋に響いた。 食べている最中、 「そういえばお母さん。さっき聞きそびれたけど、今日はどこに行ってたの?」 と娘が聞いた。 老婆は少し間をあけ、 「お墓参り。」 とだけ言った。 娘の箸が止まる。 「そうか、今日はお父さんの命日だったわね。」 老婆は何も言わず、ただゆっくりと箸を進めていた。 「亡くなってからもう十年経つのか。     
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