二人の拓哉

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少し冷たさを感じる拓哉の態度に、現実世界で会った好青年の拓哉を思い出すと、見た目はそっくりだが態度が正反対であり、いわゆるギャップというものに少しついていけない美恵子であった。 意を決して、美恵子は拓哉に近づき声をかける。 「あの、隣いいですか?」 拓哉は美恵子を見ずに「どうぞ。」とだけ言った。 座った後は、美恵子が想像していたことと違い、特になんの会話もなかった。 おそらく付き合っているだろう関係にありなが、この状況はどういうことだろうと考えてみるが、よく分からなかった。 もしかして、自分が忘れているだけで、付き合っているというのはこんな感じであったかもしれないと思うことにし、拓哉が何かしらのアクションを起こすのを待つことにした。 その後、講義が始まり十分、三十分、一時間と経つうちに、けっきょく何も起こらないまま講義が終わってしまった。 美恵子はこのまま、後は夢から覚めるのを待つだけの時間を過ごすのかと思っていると、突然美恵子の手を拓哉が握り、部屋の外へ連れ出された。 それから、建物を出て更にはそのまま大学の敷地を抜け、どんどん歩く拓哉。 美恵子にはその行動の意味が分からなかったが、されるがままついていった。 どれほど歩いただろうか、気づけば川沿いの散歩道まできた。 そこまで来る間、拓哉は何も言わず、美恵子のことも見ずにいた。 散歩道を少し行くと一つのベンチがあった。     
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