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急に倒れて亡くなったもんだから、あの時はバタバタしたわよね。」
娘の箸はまた動き出し、漬け物を食べながら思いにふけた。
「それにしても、お母さん。
もうお父さんも亡くなって、この一軒家に一人で住んでいるなんて、寂しくないの?」
確かにこの家は、老人一人には広すぎた。
「毎日の掃除も大変だし。何かあったらどうするの?
うちの旦那も、お母さんも一緒に住んだらどう?って言ってくれてるし。
そろそろ、そういうことも考えてみたら?」
老婆は、ご飯もそこそこに箸を置き、「ごちそうさま。」と言って、自分の部屋に戻った。
娘はそんな老婆を見て、肩をすくめた。
部屋に戻ると、椅子に座り、亡くなった主人が笑って写る写真を見た。
その笑顔を見ているうちに、街で出会った青年のことを思い出した。
そして、老婆は何かを思い出したように椅子から立ち上がり、押し入れをごそごそと調べ始めた。
押し入れの中は、古いものがほとんどで、普段はあまり開けられていないようであった。
数分後、押し入れの中から一冊の本を取り出した。
本は埃がかぶり、もう何年も前の物のようだ。
トントンと、本の埃を軽く払うと、青色がはっきりと見えた。
まだ少しついている埃を綺麗に払い、椅子に座り直す。
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