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「……何よ! どうせ相手が美羽ならぶつくさ言わずにおんぶしたんでしょうね。もう面倒な私のことなんて、放っておいたらいいのよ!」
私はパンプスを脱ぐと、裸足のまま夜の住宅街を走り出した。
後ろから翔太の声が飛んでくる。
「あ、……おい!」
それでも私は振り返ることなく走り続けた。
真っ暗な夜の街を、私はひたすら駆けていた。
追いつかれたらムカつくから、くねくねと道を曲がった。どこまで行っても住宅街だ。近所だから土地勘はあるものの、頭の中にいろいろな感情が渦巻いていて、自分がどこを走っているのかもよく分からなかった。
ムカつく。
ムカつく。
ネガティブな感情が心を埋め尽くしていく。
それらを振り払うように、私は無我夢中で走り続けた。それは数分のことだったろうが、何十分も、何時間もそうしているように感じられた。
「あっ!」
しばらく走ったところで、私は派手に転んだ。
手からパンプスが滑り落ち、ころころと転がっていく。痛みに耐えながらゆっくりと体を起こすと、膝は傷だらけだった。靴擦れした踵も痛ければ、つま先も痛い。
もう散々だ。
息をを切らしながら、私はアスファルトの地面にしばらく座っていた。
俯いていると、真新しいワンピースの裾が目に入る。不意に全てが馬鹿らしく思えた。
〝新しいアイテムで、新しい自分に!〟
先程よりも虚しく、あの言葉が頭の中に響き渡る。
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