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オレは何だか解らないうちに、まず右の頬を鋭利な爪で引っかかれた。両手でベッドから床に突き飛ばされ、後頭部を打って油断しきったところへ、いきなり素足で急所を踏みつけられ、朦朧としていたところでそいつに尻を何度も蹴飛ばされ、いつの間にか、マンションのドアから転がるように叩き出されてしまっていた。
こういう目覚めは生まれて初めてだった。しかも、何でオレは自分の家の前の廊下で、こんなヒンヤリとしたコンクリートの上で風に吹かれているんだろう。どうして、朝から自分の部屋を叩き出されなければならないんだろう……考えれば考えるほど、訳もなく理不尽な気がした。
「バアアアンッ!」
「うううう…………」
きつく閉じられた鉄製のドアの前で、理由もなくぼおおおっとせざるを得なかった。
「ガチャ……ガアアアン」
「うぁ痛ッ!」
おもむろに、内側から前触れも無しにドアが開いた。オレの後頭部はさっきから打撃を受けっぱなしで、すでに何億個かの脳細胞が死んでいて、もう再起不能になっているかも知れなかった。
「ご、ごめ……」
「ごめんって、あのなあ……だいたいお前、ダレ?」
「あなた……こそ……」
私がさんざん蹴飛ばしたり踏んづけたりしたそいつ。私がこの部屋に迷い出た、もしくは迷い込んだらしいことを、見渡したその部屋の調度品で知ることになった。たとえば、昨夜、お休み前に見なかったアイドルのポスターとか、ダンベルとか、男性化粧品の匂いだとか、さりげなく積まれたエッチい本だとか……。
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