街と森

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「お前から伝えられた座標に超大型の転移門が観測できた。解析した結果、それが転移可能になる前にお前たちは間に合うとの事だ。ただし小規模な転移は増えていて、明らかに統率された魔物たちと現地の帝国軍の衝突が起こっている。  竜灯火の再点火については帝位継承権第一位を持つ皇子が行う事になってるが、軍が超大型転移門を確保してから現地に向かうらしい。今はそのための大部隊が各地から集結してる途中だ。正直現実的じゃないよな。今ですら散発的に湧く魔物に手こずってるってのに悠長すぎる」 「転移門の近くに皇族を送り込む計画についての情報は?」 「表向きには発表されてないが、裏の動きからしてそういう計画があるのは間違いない。  ただ、あまり期待されてないようだ。どうやら継承権の低い皇族を捨て石のように送り込んでるらしい」 「………そうか」 「あともう一つ、帝国騎士団長を知ってるか?」 「確か妻を魔物に殺されて以来、使命感か憎しみかは知らないが魔物の討伐に尽力していると言うあの?」 「ああ。騎士団長は皇帝暗殺の前後に殺されている。状況からして人間の内通者によってな」 「確かに魔物との戦いに秀でていたなら狙われてもおかしくないだろうが……それが一体?」 「騎士団長には娘が居るんだが、彼女は皇族の従者をやってる。  お前が今見てるあの子がそうだ」 「………なぜその情報を俺に?」 「老婆心からの忠告、だな。遅かれ早かれ知る事になっただろう。彼女らにはあまり入れ込み過ぎるなよ。お前自身は冷血を装っていてもあれが師匠だったからな、いつ暴走するかわからん」 「だけど、俺にはもう後が………」 「何、帝国が魔界に攻め込まれれば状況は変わる。  そうなればお前の英雄と呼ばれる経歴にも使い道はある。組合(ギルド)にも戻れるよう根回ししてやる。  だから、無理だと思ったら手を引けよ」 「………」  唐突に背後から気配がひとつ消えた。今振り返っても誰も居ないだろう。  俺は振り返った。  そこには誰も居なかった。 ―――――  二人は街を存分に堪能したらしい。  宿に帰る頃にはルーは満足気な表情だったが、ベネウォルスは何かを恥じるように自分の頭をぽかぽか叩いていた。  二日目は流石に連日街に繰り出さず英気を養い、三日目に馬車に乗って街を出た。何事もなければ数日で目的地である山麓の町に着くだろう。 ―――――  俺たちは森の街道を進む馬車の中で揺られていた。馬車の中には他の客が数人と馬車の護衛が一人いて、各々眠ったり世間話したりとそれぞれ退屈を潰している。 「お嬢ちゃんたち、常祭街は楽しめたかい?」 「うん、とっても楽しかったよ」  ルーとベネウォルスは乗り合わせた婦人と話している。 「見て見て」  ルーがベネウォルスの左手を手に取り、自分の右手と一緒に前に差し出す。違う意匠で同じ石が飾られた指輪がそれぞれの指にはめられていた。
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