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残り一人になった賊の、振り返って誰も居なかった時の恐怖はいかほどだっただろうか。
「う、うわあぁぁぁぁああああ!」
賊は半狂乱になって走り出した。しかし、その方向には俺が潜んでいた。賊が俺の横を通り過ぎる瞬間、俺は曲げ短刀を腰だめに構えて飛び出した。短刀が深々と腹に刺さり、賊は死んだ。
俺は似たような事を繰り返して賊の数を減らしていった。途中、馬車の方に注意が向かないように適度に俺の存在を示して挑発した。そうして始末した賊を十六まで数えて、残るは頭領一人となった。
森の中、頭に傷のある大男が棍棒を持って怒りの形相で辺りを見回している。
「出て来やがれ、くそったれが!」
「そう大きな声を出さなくても聞こえている」
頭領が振り返ると少し離れた所に俺が立っている。
「てめぇ……、小狡い手で好き勝手やりやがって……覚悟はできてるんだろうな……!」
「待て。俺は提案をしに来た」
「何ぃ?この後に及んで寝言言ってんじゃあねえぞ!」
「まあ聞け、はっきり言って今回の襲撃未遂は今後の護衛に差し支える。このままじゃ俺がお館様に殺されちまう。どこから情報が漏れたのか確認を取らなきゃならない。
だから、取引をしたい」
「………じゃあその情報とやらにてめぇは何を差し出すってんだ?」
「ああ、俺はお前にとってとても魅力的なものが提案できる」
「だからそれは何なんだっつってんだろうが!」
「命は助けてやる」
「………………………は?」
「理解できなかったか?
俺に殺されずに、尻尾巻いておうちに帰れる権利を進呈しようと言ってるんだ。これ以上無い提案だと思うが?」
頭領の体がわなわなと震え出した。
「て、て、て、て、てめぁぁぁぁああああ!!!」
頭領は感情を爆発させて俺に突っ込んでくる。
だが俺と頭領の直線上にはすでにいくつもの罠が仕掛けてあった。木々の間に張り巡らされた鋼線に引っかかると、それをきっかけにして様々な凶器が襲いかかるという罠だ。仕掛け終わったら、わざと姿を現して挑発して引きつけてやれば奴は終わりになる………はずだった。
後一歩で鋼線に引っかかるというところで頭領の顔に笑みが浮かび、鋼線を飛び越えた。そして次々と飛び越えたり潜ったり体を捻ったりしてすべての鋼線を避け切り、俺の目の前まで肉迫した。
「な………!」
俺は驚愕の表情を浮かべた。
「おらぁ!」
頭領の振るう棍棒が迫る。俺は咄嗟に避けようとするが、この間合いでは避けきれなかった。棍棒が俺の両足の膝から下を捉え、地面と挟み込んでぐしゃぐしゃにひしゃげさせた。
「っぐ………!」
俺は立っていられなくなり地面に崩れ落ちた。その様子を頭領が邪悪な笑みで見下ろしていた。
「これでちょこまか逃げ回れなくなったなぁ、卑怯野郎?
それにしてもあんな安い挑発で俺をどうにかできると本当に思ったのか?だとしたら救いようがねえな。
そもそもお前が俺の前に現れた時点で何か企んでるのは一目瞭然だったぜ。だからあえて乗っかってやったんだ、感謝しろよ?」
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