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俺は這いずって頭領から距離を取ろうとする。しかしあらぬ方向を向いている足ではまったく進まなかった。
「つまらんな、何か面白い事でも言ってみろ。そしたら嬲り殺すのはやめて一撃で殺してやるぞ?」
俺は這いずるのをやめて頭領を見た。
「………一体なぜ情報が漏れていたのか………、それが分からない。それを知るまでは、死ぬに死ねない………」
それを聞くと頭領は大きく笑い出した。どうやら笑いのつぼにはまったようで少しの間笑い続けていた。
「面白え事言えるじゃねぇか。じゃあ教えてやるよ。
冒険者組合の依頼掲示板だよ」
「冒険者組合……?」
「普通依頼ってのは必要だから出すもんだ。だから逆に考えれば依頼内容からどこに付け入る隙があるか分かるって寸法よ。馬鹿にならない掲示料金もあるから信用できるしな。
その点お前の依頼主は間抜けだったみたいだな、あんな事細かに書かれた依頼じゃ逆に狙ってくれと言ってるようなもんだぜ」
必要な情報は出揃った。
「満足したか?じゃあ殺してやるよ」
頭領が棍棒を持ち上げて、俺の脳天めがけて振り下ろす。
しかし俺は、ひしゃげた足を消して、膝から折って隠していた本物の足を伸ばし横に跳んで避ける。
「え?」
棍棒を空振りした頭領が困惑している。
早いところ馬車に戻らなければ。
「な、何だその足は?どうなってる?」
だから、手早く済ませよう。
俺は魔法を発現させた。俺の影が、光源に関係なくざわめき始める。やがて地面から剥がれて実体化して厚みを持つ。そして細く幾本にも分かれて宙に伸びる。
「この魔法、まさか例の英雄の………!?」
蠢く影の触手が頭領に一斉に襲いかかる。
「くそっ、ふざけやがって!」
頭領が影の触手を打ち払う。打ち払われた影は霧散してしまうが、次々と無数に生まれる影には切りがない。
「う、うわぁっ!やめ……ひぃっ!」
影は徐々に頭領の自由を奪う。足を払って転ばし、棍棒を手から落とさせ、腕を抑えつけ、目と耳と口も塞ぎ、地面に這いつくばらせる。
棍棒を拾い上げ、頭領の前に立って見下ろした。まだもがいているが、もう何もできないだろう。
俺は棍棒を振り下ろした。
俺が森の影の中から出てきた時、街道の倒木はすでに退けられていた。俺は他の客に待たせた事を一言詫びて乗り込む。馬車が走り出す。
「随分長かったね、ちゃんと手は拭いた?」
ルーが茶化してきた。
「あっ、それじゃあ」
ベネウォルスが荷物から、真っ白で滲み一つ無い手巾を取り出して俺に差し出す。
「手が汚れているなら、これで綺麗にしてください」
「………大丈夫だ。自前のでもう拭いた」
「そうですか。でも必要になったらいつでも言ってくださいね」
そう言ってベネウォルスは手巾をしまう。
森の中を、がたごと音を立てて馬車は進む。
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