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「あ、起きた」
俺が目を開けたとき、月明かりに照らされたルーが俺を覗きこんでいた。
周囲を確認すると簡易な寝具でベネウォルスが寝息をたてていて、野営を始めた時と変わりない。林の中は静かで異常は無さそうだ。
「ふと目が覚めたらケラレさんが尋常じゃない顔でうなされてたんだ。流石に心配になって様子を見てたんだけど…大丈夫?」
俺は寝具から上体を起こして返答する。
「…少し夢見が悪かっただけだ、問題ない」
「本当に?護衛に支障が出る前に相談してよ?」
賊の襲撃があった後、馬車は護衛の判断で最寄りの村へ向かい、別の道を行く便と追加の護衛を手配しそれを待つために何日も留まることになった。襲撃のことを知らない乗客は不満を露わにしたが、有無を言わさぬ護衛の威圧感が黙らせた。
しかし俺たちにはそれほどの時間を使う余裕は無い。幸いにして港町が近くにあり、海路を迂回すれば間に合う算段がついた。時間を惜しんで出発したため、まだルーとベネウォルスに詳しい事情を説明できていないが二人とも文句を言わずに歩いてくれた。
そしてその道中で野営することになったのだが………。
なぜあんな夢を観たのだろうか。
そもそもあの夢は事実とは程遠い。俺は師匠の処刑には立ち会っていないし、そのとき俺は成人手前であんなに幼くなかった。
だから、あれは本当に何の意味も無いただの夢なのだ。
しばし考えに耽っていたが、ふと気づくとルーが座って俺をじっと見つめていた。
「起こしてすまなかったな。明日も歩くことになる、もう少し寝ておいた方が良い」
「いやぁ、それが目が冴えちゃってね。日中馬車で眠れたから疲れはそれほど無いんだけど。ベニーは馬車が合わなかったみたいだね」
ルーがちらとベネウォルスを見る。ベネウォルスは疲れていたのか深く眠っている。
休息は取れる時に取っておくべきなのだが、ルーが起きているなら丁度いい、今のうちに話すべきことを話しておこう。
俺はルーに街道で起こったことを話した。馬車の襲撃、賊の頭領が話した情報の出どころ。
それを聞いたルーは少し驚いた顔をしたが、ある程度は覚悟しているようだった。
「やっぱり、そういうことが起こっちゃったんだね」
「心配か?」
「そうだね。でもケラレさんは良くやってくれてるし、これからもっと頼らせてもらうよ」
「ああ、道中の障害の排除は任せてくれ。しかし、不可解なことがあるのは厄介だ」
「そうだね。何者が刺客を送り込んできたのか、次はいつ来るのか………でもそれは今考えても仕方のないことじゃない?私たちは先を急ぐしかないよ」
「それはその通りだ。だが、俺が言っているのはそういうことじゃない」
「どういうこと?」
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