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「俺は『動機』がわからないんだ」
ルーが不思議そうな顔をする。
「?そんなの儀式の妨害以外に何があるの?」
「ルー」
俺は座り直し、ルーに真正面から向き合った。
「お前は何が目的なんだ?」
夜風が吹いた。ルーの背後の木が揺れて、ざわざわと音を立てた。
ルーはぽかんとした表情をしていた。いきなり訳のわからないことを言われて困惑している表情だ。
だが、かすかに瞳が動いていた。俺はその動きを知っている。追い詰められた人間が、平静を装いつつ小刀をどこにしまったか思い出しているときの動きだ。
やがて、ルーの目が据わった。
俺たちが沈黙していたのはわずかな時間であり、ルーも瞳の奥に常人より短い動揺を見せただけなので側から見たら少し間延びした会話をしているだけに見えるだろう。
「…もうちょっと説明してくれる?」
先を促されたので俺は口を開く。
「聞き出した情報からわかった『冒険者組合の掲示板に偽の依頼を掲示しその情報を元に襲撃させる』という方法、俺はそもそもこれに違和感を感じた。何故なら敵が今の状況でこの方法を取る利点が全く無いからだ。
まず確実性が無い。どんなに美味しい話をでっち上げて襲撃させようとしても、誰がいつどんな風に襲撃するのか決められない以上望む結果になる可能性は低い。その辺のごろつきに直接依頼を出した方がましだ。
また、要人暗殺の際に誰が何のために誰を狙ったのかを有耶無耶にするために回りくどい方法を取ることもあるが、これも別の理由で否定できる。今回は標的も動機もはっきりしているし、手引きしたのが内通者だったとしても暗殺が成功すれば魔界の侵略が始まってしまうのだからここまでして正体を隠す必要もない。
だから、想定していた敵の仕業では無いと考えた。
ではこの方法を取る必要があったのは一体何者なのか?これは少し発想を変えればわかった。その何者かはこの方法を選んだんじゃない、これ以外の方法を選べない理由があったんだ。例えば、同行者の目を盗んでわずかな時間で事を済ませなければならなかった、とかな。
お前たちが常祭街で観光をしたとき、俺はすべての行動を見ていたわけじゃない。そしてあの通りには冒険者組合の支部もあった。
だから、あの賊の襲撃を手引きしたのはお前だ、ルー」
ルーが動揺したのは最初の一回だけだった。今は落ち着き払っていて、出会ってから何度も見た軽薄な笑みを浮かべて俺の推理を楽しんでいるようにも見える。
「なるほどなるほど、筋は通ってる。でも満点はあげられないねぇ。
その推理じゃ私にも可能だったってだけで私がやったっていう決め手にはならないよね?もし私が完璧な対応をしていたら、それ以上追求できなくなって旅の間すっごく気まずくなっちゃうよ?」
「いや、最初の動揺が無かったとしても俺はお前が怪しいと踏んでいた」
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