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さて。
俺は面倒は御免なので広場にいる他の人間と同じく事態を静観していた訳だが、ここで一つ思い当たることがある。
そうこうしているうちに男達は再び少女二人の前に立ち、顔を引きつらせて指の関節を鳴らす。
「……覚悟はできてるんだろうな、生意気な嬢ちゃん」
「一つ聞きたい事があるんだけどいい?」
「あ?何言って……」
「私達、『竜の足跡を辿る旅をしたい』んだけど早くしてくれないかな?」
「はぁ?」
間違いなかった。『竜の足跡を辿る旅をする』は、本人確認の為の符号だ。つまりあの少女達は護衛対象で、この広場にいるはずの護衛に『早く助けろ』と伝えているのだ。そしてその護衛とは俺である。
初めは世間知らずな娘がごろつきに絡まれただけだと思っていたが、あの少女はそれを利用して俺の事まで計ろうとしている。
「訳のわからねえ事を言ってるんじゃねぇ!」
男が拳を振り上げ少女達に襲いかかる。しかし唐突にその動きが止まる。
「!?」
男達は驚いているが不自然なほど微動だにしない。そしてそのすぐ隣を通って俺が少女達に近づいて話しかける。
「奇遇だな。俺も『竜の足跡の写しを採りたい』んだ。ついて行ってもいいかな?」
「うん、いいよ」
男達を挑発した少女は応えた。そして男達に近づくと、
「これ、返してもらうよ」
と言って動けない男の衣嚢から財布を取り出した。
俺達は三人連れ立って広場から出て行った。
―――――
「先ほどは危ないところをありがとうございました」
俺達は少女二人がとっている宿の部屋に居た。卓子を挟んで俺と、最初に言い争っていた少女が座っている。
艶やかな背中まで伸びた黒髪の少女が俺に礼を言う。そしてその後ろで金細工のような波のかかった金髪の少女が寝台に座ってくつろいでいる。二人とも成人に到らない少女と言った風貌だ。
「ありがとねー」
「ルクス様、そのような感謝では失礼ですよ」
「……一応確認しておきますが、護衛する皇族というのはそちらの金髪の御方でいいんですよね?」
俺は慣れない敬語を使って尋ねた。
「そだよ。私がルクス」
「申し遅れました。私は従者のベネウォルスです」
「俺は……」
「知ってるよ。『英雄』さん、でしょ」
自己紹介しようとしたら、皇女に遮られた。
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