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街と森
「観光に行こう」
ルーが言い放った。
俺たちは予定通り夜には街に着き宿で一泊していた。今は二人が食堂で朝食を食べ終えたところだ。ちなみに護衛の都合、俺は時間をずらして食事を摂っている。
「な、何言ってるのよ、あなた!」
ベネウォルスが狼狽している。
「こんな時に観光なんて!そんな事している時間はないでしょう?」
「まあまあ落ち着きたまえよベニーちゃん。
目当ての定期便の出発は明後日だよ。十分に時間はあると思うけど?」
「でも、そんな場合じゃ………」
ルーが立ち上がり、正面からベネウォルスの両肩を掴み、迫る。
「いや、よく考えるんだベニー。今私たちは旅人なんだよ?
たとえ目的があったとしても空いた時間を何もせずに過ごすなんて不自然極まりないと思わない?
そう、つまり、今は観光することこそが最良の選択という訳なんだよ!
ね、そうでしょ?」
こちらに振り向くルーに同意を求められた。
「えっ……?あの……その……いや……でも……あれ?」
混乱しているベネウォルスに視線で助けを求められた。
―――――
街の中心部の大通りには様々な施設が建ち並び、露店や屋台も開かれていて人々がごった返し賑わいを見せている。
色鮮やかなたくさんの旗がはためき、楽団が華やかな音楽を演奏していてまるで祭りのようだが、ここは普段からそんな場所らしい。
そんな喧騒の中を、金細工のような金髪の少女が艶やかな背中までの黒髪の少女の手を引く。
ルーはとても楽しそうに、ベネウォルスは興味津々と言った様子で周りを見ている。
さっき食事を摂ったばかりなのに屋台の焼き菓子を食べたり、民芸品や装飾品の露店を眺めたり、大道芸人に夢中になったりしている。
そして俺はというと、通りにある茶房の屋外席で茶をすすりながら二人を眺めている。少しくらいなら離れていても気配で動向は掴めるので問題ない。
二人がふと俺の方を見た。ルーが手を振ってくる。ベネウォルスもつられて手を振る。二人共笑顔だった。
俺が無表情のまま手を振り返していると、
「………何やってんだ、お前」
背後から呆れた調子の声がする。
「………別にいいだろ」
振り返らず、相手と同じように音を抑えた発声法を使う。この喧騒の中では俺たちが会話していると気づく者はいないだろう。
「まあ、今は仕事するか。
まずは皇帝暗殺の件だが、裏が取れた。というか一昨日には帝都で発表されてたから帝国全土に伝わるのも時間の問題だな。
それに伴う竜灯火消滅の件は意外な事に皇帝暗殺と共に発表されてる。もっと隠しておくかと思ったけどな。ただ国民の反応は鈍い。無理もねえか、五百年ぶりの危機だって言われてもいまいちぴんと来ねえもんな」
「魔界の軍勢の動向とそれに対する帝国の対処はどうなってる?」
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