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彼女の異能
「おはよう!」
月曜の朝。
校門の前で顔を合わせた楠ノ瀬に声をかける。
偶然出くわした風を装ったが、本当は二人が登校してくるのを二十分ほど待っていた。
「あ……おはよう」
楠ノ瀬が少しだけ戸惑った様子を見せて応えた。
チラリ、と隣に立つあやちゃんに遠慮がちな視線を向ける。
あやちゃんは楠ノ瀬の隣でじっと睨めるように俺を見ていたが、
「……おはよ」
小さく溜息をつきながら、低い声で返事を寄こした。
山の中で見たあやちゃんの痴態が脳裏をよぎる。徳堂の指に翻弄されて悦ぶ彼女の白い肢体が目に浮かんできて……俺はさりげなく彼女から目を逸らした。
グレーのきっちりとしたブレザーに膝より少し短いだけのスカート。
どこからどう見ても真面目で大人しそうな二人の制服姿からは、男と交わって乱れる姿なんか全く想像できない……。
「あれ? ケガしたの?」
楠ノ瀬が俺の左頬を指差して言った。
「え? あぁ……大したことないよ、ただのかすり傷」
心配そうに見つめる楠ノ瀬を安心させようと、俺は笑って答えた。
山の中で枝に引っ掻かれて付いた傷だった。
「そう……だったら、いいけど」
そう言って楠ノ瀬は何か考え込むように口元に指を当てて目を伏せた。
「清乃ちゃん、行くよ」
動かない楠ノ瀬を急かすように、あやちゃんが腕を引いた。
「あ、うん。高遠くん……じゃあ」
名残惜しそうに小さく手を振る楠ノ瀬に、俺も軽く手を上げて応えた。
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