序章

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序章

 目が覚めると、知らない部屋に寝かされていた。  ――今は何時だろうか。  障子越しにぼんやりとした薄明かりが入ってくるだけで辺りは暗いから、きっと夜なんだろう。  ――俺はどうしてこんな所にいるんだ?  二十畳はありそうな和室の真ん中にぽつりと敷かれた一組の布団。  その上に俺は寝かされていた。  身につけているのは薄い浴衣一枚だけ。  しかもそれは白一色。死装束みたいなやつだ。  このまま棺桶の中に放り込まれてしまうんじゃないか、と俺は怖くなった。  そもそも、いつのまにこんなものを着せられたんだ?  思い出そうとしても、頭に(もや)がかかったように思考が形を成さない。  起き上がろうと力を入れたが、全身が痺れたように動かない。鉛を呑み込んだみたいに体が重かった。 「ぁ……だ、れ……かっ……」  人を呼ぼうと声を振り絞ったが、喉から出てくるのは喘鳴(ぜんめい)だけだった。  俺は仕方なく横になったまま天井を見つめて、周りの音に耳をすませた。  障子の向こうから、かすかに風の音が聞こえた。  風に吹かれてかさかさと触れ合う葉の音が聞こえた。  他には何も聞こえなかった。  ――静か、だった。  静寂の中で研ぎ澄まされていた俺の耳が、わずかに異音をとらえた。     ぺたぺたぺた。  それは風の音とも葉の音とも違う……人間の立てる音だった。  ――誰か、来る。  俺は布団の上で身動きできないまま、ごくりと唾を呑み込んだ。
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