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「楠ノ瀬!」
俺が後ろから声をかけると、彼女はピクっとかすかに肩を震わせた。
しかし、反応したのはその一瞬だけ。
俺の声が聞こえてないはずはないのに、こちらを見ようともしない。
「なぁ……ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
続けて問いかけてみたが、完全に無視される。
仕方なく彼女の肩に手を置いて軽く揺する。
すると彼女は目線だけを後ろに寄こし、
「……離して」
ぞっとするほど冷たい声で言った。
それを発した彼女の唇は白く乾いていて。
あの夜……猛り立った俺のモノを咥え込んで吸い付いた……あの唇と同じものだとは、とても思えなかった。
「ぁ……悪い」
彼女の声に圧倒された俺は思わず謝って、肩から手を退ける。
俺がなすすべもなく立ち尽くしている横で、楠ノ瀬は何事もなかったかのように、黙々とゴミ袋をポリ容器の中に放り込んでいる。
手早く作業を終えてしまうと、さっさと踵を返して来た道を戻ろうとした。
「ちょ……ちょっと待ってくれ」
このまま何も聞けないまま帰したのでは、俺はまた一人で悶々とした日々を過ごすハメになる。
思い切って声をかけたが、彼女は俺の呼びかけを無視してスタスタと歩いていってしまう。
「おい、楠ノ瀬…………きよちゃん!」
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