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やがて静かに襖が開いた。
人影らしき黒いものが近づいてくる。
ほのかに、甘い芳香が漂った。
――女?
その影は俺の足元まで来ると膝を折り、三つ指をついて深いお辞儀をした。畳に額をこすりつけたまま、しばらくその体勢を崩さない。
そして聞き取れないほどの小さな声で何かを呟いた。
まるで儀式のような一連の行為を終えると、女はおもむろに顔を上げ、俺の上に馬乗りになった。
動けない俺はされるがまま、自分に跨がる女をただただ黙って見上げることしかできない。
障子越しに差し込んだ月明かりが、暗がりの中にうっすらと彼女の顔を浮かび上がらせる。
「ぁ……く……」
俺は思わず彼女の名を呼びそうになったが、言葉にはならなかった。
彼女は右手の人差し指を自分の口元に当てると、俺の顔を見下ろしながら、「しーっ」と囁く。
俺の体は金縛りにあったように硬直していた。
――これから何が始まるんだ?
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