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楠ノ瀬が休んでいる間、俺は悶々と日々を過ごした。
家でも学校でも、寝ている時でさえも……。
あいつの艶めかしい肢体が、頭にこびりついて離れない。離れてくれない。
もう一度……。
あいつの白桃のような胸にむしゃぶりつきたかった。肉厚で甘い舌を吸いたかった。そして、ぬめぬめと蠢く生き物のようなあの唇に、全身を這い回されたかった。
俺は何度もあの夜の彼女を思い出しては、自分で自分を慰めた。
しかし――。
久しぶりに登校してきた現実の楠ノ瀬は、俺の記憶の中のあいつとは全く違っていた。
あれ以来、隣のクラスの様子をさりげなく伺うのが俺の日課となっていたわけだが。
窓際の後ろから二番目の席で、頬杖をつきながら窓の外を見つめる楠ノ瀬からは、あの夜の色気も艶めかしさも何も感じられない。
着崩すこともなく規程通りに身につけた制服。
グレーのきっちりとしたブレザーは、あの夜の赤い襦袢のイメージとはかけ離れている。
――いや、そもそも楠ノ瀬はこういう女だった。
表情と口数の乏しい人形のような女。
教室の隅でひっそりと目立たない観葉植物のような女。
それが学校での彼女の印象だったはずだ。
――やっぱり夢だったのだろうか?
現実のあいつを前にすると、わからなくなった。
「直接、確かめるしかないよな……」
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