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討ち入り
「ドン、ドン、ドォン。ドン、ドン、ドォン――」
響くは、山鹿流陣太鼓。
ついに、決戦の時が来たのだ。
今日こそ仇を取らいでか。
雪がまた、ちらつきはじめており、鋭応と鬨の声を上げる息も白かったが、そんなことで臆するような意気地無しは一人もいない。
白襟を入山型に染め抜いた揃いの火消し装束に身を包み、新雪を踏みしめ、粛々と進んでいるつもりで千太は、近所の洟垂れ五、六人を手下に、ぬかるみを蹴立てて隣り町へと討ち入った。
「うわっ、やられた。鉄砲とは卑怯なりぃ」
お調子者の清助が、芝居がかりに、きりきり回って、ばったりと倒れる。
敵もさるもの。小石を芯にした硬い雪玉を沢山作って待ち伏せしていたのだ。
「おのれ猪口才な。この間の遺恨覚えたるか!」
「千ちゃん、それァ由良之助じゃないよ。塩谷判官じゃねえか」
「うるさいやい。雑魚に構うな。目指すは師直の首ただ一つ。かかれぇーっ」
わっと喚声が上がり、千太が言うところの師直は、あっと言う間になます切りになる。
「ひどいや千ちゃん。これァ師直じゃないやい」
亀吉が半べそになり、
「やいやい、てめえら。よくも俺の雪達磨をぶっ壊しやァがったな!」
それまで面白がって見ていた与七が、思わず血相を変えて飛び出した。
※大星由良之助は大石内蔵助、塩谷判官は浅野内匠頭、高師直は吉良上野介。
芝居の仮名手本忠臣蔵では、そういう名前になっています。時事ネタをそのまま芝居にすると、たちまちお咎めを受けてしまうので、ムカシの話ですよという体になっているのです。
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