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人びとは言った。
きっと田植えが辛くて逃げたのだと。
恥をかいて逃げ出したのだと。
やがて月日が経ち、人々は女のことを忘れ、
話題にすることもなくなった…。
…そして冬が訪れると雪の田んぼ道に
田植えをする女の列を見かけるようになった。
顔は昨年、その前の年といなくなった女の顔と瓜二つで
皆一様に血の気のない顔で黙々と手に苗を持ち雪の上に植えていく。
あられが降ろうと、雪が降ろうとも
女たちは毎日毎日ただ黙々と列になって植え続ける。
そして春先になると女たちは姿を消す。
どこへ行ったかはわからない。
ただ、冬になると列の人数が増えている。
いなくなった女の数だけ列の人数が増えている。
それが毎年続いていく。
集落の人々はきみ悪がり、
女たちの供養のために道の端に地蔵を置いて拝むことにした。
だが、今でも変わらず女たちは田植えをする。
雪の中で黙々と田植えをする。
…このあたりでは雪の日に変死体が見つかることがある。
遺体は老若男女問わず、
道の真ん中に仰向けに倒れ窒息して死んでいる。
救急隊員の話では彼らの口の中には
枯れた稲藁が大量に詰め込まれているのだという。
そして、その周囲には何十人という足跡と
取りこぼしたと思しき藁の残骸だけが落ちているのだそうだ…
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