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「おじちゃん。ユキの様子はどう?週末までもちそう?」
首からかけたタオルで汗を拭きながら、夏蓮(かれん)が尋ねてきた。
こんな場所に不釣り合いなほどの美女だ。
パリのブランド店が立ち並ぶ通りを、高級なドレスと高級なコートを身にまとい、これまた手入れとしつけの行き届いたトイプードルなどを連れて歩けば、「マドモワゼール、ボンソワール、お茶でもいかがシルブプレ、よろしければご自宅までお荷物をお持ちいたしましょうメルシィボクゥ、僕独身よぉ?」などと求愛でもされそうな外見なのだ。
そんな美女の夏蓮が着ているのは、まごうことなき汚れに汚れたつなぎ。
もちろん、オールインワンなどというちょいとおしゃれなものではない。
正真正銘、作業用つなぎである。
絹のような艶のある髪を後ろで縛り、夏蓮が問いかけた相手は、これまた夏蓮とお揃いのつなぎを着用しているものの、生まれながらの肉体労働者のようなたくましい五十路を越えた男であった。
おじちゃんと言われた翔一(しょういち)は、手拭いで自分の汗を拭いた。
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