僕はしばしば、泣く

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 男二人が、居酒屋でもなく深夜営業のカフェで向き合って、片方はふんぞり返り、 もう片方は俯いてむせび泣いている。なんて奇妙な空間なんだ。滑稽に違いない。 せめてもの救いは、ここが外の大通りに面した席ではないということくらいだ。  大手カメラメーカーの営業として1年と3か月。もともと営業なんて向いていなかった。 転職活動中友人の紹介で高槻さんを紹介してもらい運よく入社できたが、カメラに興味があったわけでもなく、長引きそうな転職活動に終止符を打ちたくて投げやりになっていたわけでもなく、ただ高槻さんに惹かれたのだ。  ただ、それだけだった。  白いシャツがよく似合っていて、冬はさらにその上から白いベストを着ていることが多かった。ともすればおじさん臭く見えてしまうスタイルだったけれど、それはとても彼に似合っていた。   静かな空気をまとった人だったなと職場の風景とともに思い出す。殻を破るのが苦手な僕が、知らず悩みを打ち明けたり相談事をするようになったのも、彼の持つ人柄ゆえだ。外国のあたたかな昼下がりのように、時間が存在しないゆとりと安心感があった。  店内は、水が跳ね返るようなかすかな音量でジャズらしき音楽がひたひたと流れている。時間も時間だからか、僕ら以外の客は数人もおらず、カウンター席にひとりと入り口付近に男女のペアがいるくらいだった。静かなのが、なお恨めしい。  しばらくすると、隆が注文したマルゲリータが運ばれてきた。 僕は慌てて袖口で顔をぬぐい、ごまかすためカップに手を伸ばした。  
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