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「…で、仕事は何がつらかったんだ」
「話が通じない上司と、これまた話の通じないクライアントに挟まれる案件が続いて、
鬱になりかけた」
口にしてしまえば、一行で終わってしまうくらいシンプルで、心の中で泣いた。今となっては感覚も薄れ他人事のようだけど、起床して自宅を出る時間が迫るのが恐ろしかったあの日々は、日に日に僕を蝕んでいくのが分かった。
会社にいた自分を思い出そうとすると、四方にそびえたっている高い高い分厚い壁が、どんどん天に向かって伸びていき、そこから抜け出せないようなイメージが浮かぶ。壁の内側にいる僕は、外に世界が広がっているだなんて思いもよらず、ただひたすら目の前の仕事を処理していくことしか考えていない。
だけど、そんなことは自分の思い込みであって、外への扉はいつでもつながっているんだ。抜け出した今なら、それが分かる。
そんなつらい日々を、「つらい」ことだったのだと自覚できたのも、高槻さんのおかげだった。彼に話すだけで、「それはつらかったね」とか「ご苦労さま」と心配したり、ねぎらってくれたりした。その一言で、なみなみに注がれたコップいっぱいの水が溢れ、同時に僕の目から雫がつうっと伝う。僕は彼の前で恥ずかしげもなく、泣いていた。
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