2人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
崖っぷちなオレに完璧なるメロディーを
書けない。
書けない。
朝から晩までアイディアを捻り出そうとして考え込むが、何一つ音は降りてこない。
何日も時間をかけようとも五線譜は白いままだ。
オレは出だしの音符すら決められず、延々足踏みを繰り返していた。
「クソッ。何も浮かばねぇ!」
八つ当たり気味に譜面台の上の白紙をグシャリと握り潰した。
勿体ないだなんて思わない。
それどころか、歪んだ五線譜が「まるでお前の人生みたいだな」と嗤(わら)ってるような気がして、堪らず屑カゴに投げ捨てた。
「ライブまで後3日しかねぇってのに……。早く書かねえとスタジオ練習すら出来ねぇぞ」
オレは完全に追い詰められていた。
期日という意味でも、『夢追い人』としての年齢においてもだ。
バンドマンとして一攫千金を目論んで早10年。
一向に芽が出る気配すらなく、年齢を重ねていくだけの日々を過ごしてきた。
自分が武器と思えるのはせいぜい、苦難を共に乗り越えたメンバーとの絆と、そこそこ良いと評価される見た目くらい。
他に目立った取り柄など無に等しい。
割かしモテるという利点をフル活用し、どうにかして彼女に養ってもらえる身分を得る事ができた。
だが、その立場もここ最近は危うい。
最初のコメントを投稿しよう!